日々は続く。

元サブカルクソ女・現お母さんの考えること。

あの頃の僕たちは、コンプレックスの淵でただその手を取り合って。

私は不妊治療などは何もせず、うっかりと高齢と言われる年齢で子供を授かることができた。

 

妊娠中期までは本当に仲のいい友達にしか妊娠は明かさず、親にも黙っていた。

ふくらんだお腹で外を出歩く頃には、何度か「なに(治療を)かしたの?」と聞かれたんだけれども、特に嫌な気持ちにもならず「なにもしていない」と答えた。

 

今考えるとかなり失礼な質問だと思うが、本当になにもしてなかったので、なにもしてないから特になにも思わなかった。

 

うちの娘が下界で暮らしたくなったから、気まぐれにお腹に引っ越してきたんだろうなと思っている。

 

けれどそれまでは、自分の年齢にコンプレックスがあり、焦燥感と無力感も同時に少しだけあって、あまり認めたくなくて見て見ぬ振りをしていた…ような気がしないでもない。

ちょっと歯切れが悪いのは、今もまだ認めたくないからなような。

 

コンプレックスの正体は「いい年して何も成し遂げていない」という自責。

 

これはけっこうきつかった。

体調を崩して、仕事をやめていた時期があって。

 

結婚はしていたので家事はきっちりこなし、夫の体を気遣った完璧な食事を作っていたので、何もしていなかったわけではない。

でも自分の体調を改善させ「普通に生活」できるようにフィジカルを整えていた年月の中で、焦ってもしょうがないのに「いい年してこんなことしてていいのかな」が、ふとした瞬間襲ってくる。

 

サブカルっ子として、これは致命的な出来事なのは、サブカルっ子にはわかってもらえると思う。

 

「何かしてそうな見た目」なのに「何もしてない専業主婦」なのはキツイ。

 

だから、というわけでもなく本当に趣味だからやってたんだけれども、私はインスタグラムでちょこちょこ自分のていねいな暮らしをアップし始める。

私はベーカーズパーセンテージを計算して、粉からパンを作ることができ、完璧なメレンゲでふわふわのシフォンケーキを焼けたから、フォロワーがたくさんできた。

 

外国人のフォロワーも多く、英語が話せるので英語でやりとりもした。

毎日こんなに素敵な専業主婦であることで、この人生が腑に落ちるように仕向けていたのではないか。

ないか?

 

ここはまだ自分でもとても曖昧なところで、自分になにもキャリアがない暇な専業主婦だからインスタ映えで自己承認欲求を満たしていた、とかそこまで深刻でもない。

 

多分その時の趣味がパンを焼いてインスタグラムにアップして、やりとりすることだったんだと思う。

そこは純粋に、インスタ映えがおもしろくてしょうがなくてイキイキと楽しんでいた。

 

言い訳がすごい。

 

言い訳してもしょうがないんだけど、本当に私はインスタ映えが好きなキラキラサブカルババアなので、そこはわかっていただきたくて必死だが、わかってほしい。

わかってくれましたかね?

 

早起きして、ヨガをやってから手作りごぼう茶を煮出して、完璧に掃除洗濯をして、手作りパンを使った健康的な朝食を夫に出し、3キロの道のりをウォーキングしながら買い物に行っていた。

 

カフェインは体を冷やすので、あまりとりすぎないように。メインはルイボスティーで。

冷えは全ての不調の原因なので、体を温める食材を中心に毎日の献立を考える。

 

でも、健康を意識しすぎてストレスをためないようたまにペヤングを食べ、マックも行く。

好きなアニメを見ながら、インスタ映えする写真を撮りまくってフォロワーにちやほやされながら、おしゃれな奥様をエンジョイしていたらどうなると思います?

 

体調が良くなったんです。

 

インスタ映えするヘルシー志向キラキラサブカルババアになってしまい、結果ものすごく体調を持ち直しこれなら仕事できるなあ!というところまで回復してしまった。

 

しかしながら、まだ胃の奥の方に「いい年してこんなことしてていいのかな」が居座っていてそれは出産のリミットにも関わってきた。

35歳になればもう、多分子供はできないものと思って、そう切り替えて生きていかなければなと漠然と思っており。

あとは、あまり子供が好きな方でもなかったので、いなければいないで好き勝手に生きていけるしな…と納得していた。

 

強がっていたのかもしれないし、マイペースに生きていたかったのかもしれない。

 

今、子供がいる状況ではもう当時のコンプレックスを掘りかえす勇気がない。

 

うっかりものすごく健康になった頃には34歳になっており、よし、もう私たち夫婦は子供がいない人生を満喫しようね!と夫と折り合いをつけ。

今後なにをしよう。

なにか面白い仕事でもして、きちんと「何かしてそうな見た目で何かしてるおばさん」を目指すか!

と、一念発起して履歴書を書こうとしたら、風邪をひいた。

 

ヘルシー志向キラキラサブカルババアになってからは、何年も風邪なんかひいていなかったので、体調の悪さに驚いてしまい一旦履歴書をしまって寝込んでいたら。

 

妊娠三ヶ月だった。

 

なんだかそれからは怒涛の日々でよく覚えていない。

高齢なわりには、全く問題のない優良妊婦だったのだが、つわりがひどすぎて記憶がない。

 

出産してからは、以前の記事にも書いた通りワンオペ育児で死ぬ思いをしたのだが、育児の経験とヘルシー志向キラキラサブカルババアだった頃の経験が、なんと仕事になった。

ライターとして、オーガニックや無添加の文章を書いてギャラを頂き、ワンオペ育児の経験を元にしたコラムも採用してもらった。

 

ふと気づいたら、胃の奥で重く身体中を冷やすように居座っていたコンプレックスが、全て解消されていた。

 

今では老けることをなんとも思わなくなった。

もちろん白髪がめんどうくさかったり、若い頃のように思うように動けなくなったのは困ることもあるが、「まあババアだからなあ!ガハハ!!!」で納得できる。

 

子供の世話と家事、仕事があるので忙しい。

 

仕事は自分でも相当がんばってもぎとったな、と自画自賛したいくらい、がんばってライターとして毎月お金をもらえるようになった。

 

私は無事に「何かしてる人」になれた。

マウンティングともとられかねないから、実生活ではこんなことは話せない。

 

何かしてる人に加えて、子供もいるなんてコンプレックスも裸足で逃げ出すだろう。

 

現に今は年齢にコンプレックスは抱えておらず、できれば、高望みするならば、でもそれは子供の人生であるので強要はしたくないが、万が一、もし願いが叶うなら、孫を見たい。

これは子供にも言えない夢なので、そっとババアの心の奥にしまっておく。

 

最近やたらと思い出す人がいる。

 

私は20代の頃、水商売をしていていろんなお店で働いていた。

水商売は、酒を飲んでお金がもらえる最高の仕事である。

できることなら今でもやりたい。

 

あるお店で年上なのにとってもかわいい、愛ちゃん(仮名)というお姉さんがいたのだが、年齢を聞いてびっくりした。

もう40歳だという。

見た目は小さくてかわいらしく、ふわふわした洋服を好み、くるっとカールさせた茶色いロングがとても似合っていて40歳だなんて信じられなかった。

 

当然、愛ちゃん(仮名)はすごくモテていて、お店が終わるとよくお客さんと飲みに行っていたけれど、それで寝不足になってしまい昼の派遣のOLの仕事をよく休んでいたらしい。

今自分がその年になってみてよくわかるんだけども、この年で昼間仕事をして、それからスナックなりパブなりで働いて、朝まで酒飲んだら絶対に会社に行けない。

いやでも、愛ちゃん(仮名)は実家暮らしらしいから、そこは仕事行けよ!と思わないでもないんだけど。

 

若かった私は「愛ちゃん(仮名)って昼の仕事休んじゃうんだ…ちょっとだらしないな」と引いていた。

愛ちゃん(仮名)は、気に入ったお客さんと楽しくお酒を飲みたいから、嫌な客につかされると無視して逆のテーブルの人と喋ったりするので、たまにフォローしていた。

 

愛ちゃん(仮名)の会社の40代の独身男性は、それまで夜のお店で飲んだことなんかなかったのに、愛ちゃん(仮名)に入れあげて実は水商売をしていると告げられ常連客になった。

ぱっと見地味な男性なので、愛ちゃん(仮名)はぜんぜん相手にしておらず、気をひくためにBMWを買い、タワーマンションまで買ったけれども全て失敗していた。

 

その時、愛ちゃん(仮名)は25歳の警察官とお付き合いをはじめ、年齢を聞かれて免許証を見せたら、彼氏が超びっくりしてた〜!と爆笑していた。

 

ここまでで、根が割と真面目なサブカルっ子であるところの、私はドン引き。

 

さらにドン引きしたのは、愛ちゃん(仮名)は「疲れててお仕事に行けな〜い!」と泣いちゃうんだそうだ。

お母さんだかお父さんが、夜のバイトはやめたら?と言ったらしいが、素敵な結婚相手と巡り会いたいだか、人生勉強だかでとにかく夜はやめない。

20代の私は、その話を聞いて苦笑いすることしかできなかった。

 

わりと近所に住んでいたらしく、昼のスーパーで「今夜は豆乳鍋なんだ」と、豆乳鍋のスープと具材を買ってる愛ちゃん(仮名)を見たこともある。

豆乳鍋のスープはまずそうだった。

 

ある日、お店の裏から「おはようございまーす」と出勤したら、店のキッチンで愛ちゃん(仮名)がなんか食べている。

「仕事終わってから、夜中までだとお腹すいちゃうでしょ〜」と、40代にはとても見えないかわいい笑顔で、みたらし団子を食べていた。

 

みたらし団子を貪り食う、愛ちゃん(仮名)を見て「あ、この人ババア」だ、と改めて気づかされた。

 

お店は商店街のはずれにあり、駅から店にくるまではコンビニもスーパーもおしゃれなデリもある。

その中からあえて和菓子屋を選び、店のキッチンでみたらし団子を貪り食う四十路(独身・実家暮らし)にショックを受けた。

 

愛ちゃん(仮名)は、どんなに見た目がかわいくても体はババアなんだな…と地味にショックを受けてすぐ、そのお店をやめてしまったので愛ちゃん(仮名)がどうなったかは知らない。

この出来事は「どんなに見た目が若くても、四十路のババアになると和菓子食べだす」事件として、私の心に深く刻まれる。

 

そして今、私がよく買うのは和菓子だ。

和菓子超うめえ。

 

あんこはさっぱりしたものがよく、ちょっと苦味がある草餅なんか最高。

うちのすぐ近くに和菓子屋があり、娘もよく一緒に行くのでご主人や奥さんともよく話す。

そのお店には焼きまんじゅうという、酒まんじゅうを強火で焼いてからみたらしをかけるという最高のお菓子があり、月に一回くらいはシャブ中のごとく焼きまんじゅうが食べたくて体が震えだす。

 

和菓子を買うたびに、愛ちゃん(仮名)のことを思い出す。

 

彼女は25歳の彼氏とどうなったのだろうか。

年齢を知られても付き合っていけたのだろうか。

結婚はできたのだろうか。

実家は出たのだろうか。

定職にはつけただろうか。

それとも、金持ちのおじさんと結婚してセレブ妻になっただろうか。

 

今考えると、いつもきれいに茶色に染めていた髪の毛は、白髪染めだったんじゃないかと思う。

 

愛ちゃん(仮名)は、「ワセリンてあるでしょ?あれを顔じゅうにべったり塗って寝ると、朝すごく調子がいいんだよ!」と教えてくれた。

20代なんか、化粧も落とさず寝ちゃうこともあるというのに。

 

私は40歳間近になり、化粧水で保湿したあとにワセリンを塗っている。

和菓子とワセリンに触れ合うたびに、愛ちゃん(仮名)を思い出す。

 

彼女はもう55歳をすぎていて、還暦に近づいている。

せめてインスタグラムでマウントとりまくってる、セレブ妻であってほしい。

 

ちくっと心が痛くなる。

 

私はコンプレックスを捨てて、「何かしてる人」兼母親になった。

人の人生に口出しできるほどえらいもんでもないけれど、愛ちゃん(仮名)は55歳を迎えるまでに何かを掴み取っただろうか。

 

私は、愛ちゃん(仮名)に勝った!と思っているのだろうか?

彼女をバカにして、クリエイティブなワーママであることを暗に自慢したいんだろうか?

愛ちゃん(仮名)を見下して、自分はああならなくてよかった…と安心しているのだろうか?

 

この愛ちゃん(仮名)への心の引っかかりは、胃の奥にずっしり重く居座っていたコンプレックスがいなくなり、それと引き換えに手に入れた自画自賛の対価ではないか。

 

彼女が彼女なりに幸せになっていればそれでいい。

でも、不幸になっていたとしても私には関係ない。

これからの人生、彼女と同じ空間で過ごすこともないだろう。

 

大きな川の近くの、小さな飲み屋で出会った40歳が、クリエイティブなワーママとして華やかに生きたい私をちょっとだけ深淵に押し込める。